おれは自分の声が嫌いだ。
自分が喋っている自分の声はわりと好きだ。ガキの頃、テープレコーダーに録った自分の声を聴いた時は、テープレコーダーって変な声でしか録れない、と思ったものだが、後にそれが他人が聞いている自分の声に近いのだと知った時にはショックを受けた。
そうか、おれが好きな自分の声はおれだけが聴いているもので、他人にはこんな変な声に聴こえているんだ!というショックだ。若い頃には「いい声をしているね」とか、「声が好き」とか言われたこともあるが、自分では自分の声が気持ち悪くずっと聴いたことがなかった。
YouTube動画に音声を入れないのはそのコンプレックスがあるからである。本当は、テロップを入れるよりも声を入れた方がずっと観やすく面白くなるのだが、自分の声が嫌なのだ。
ところが、動画を何本も制作しているうちに、どうしても音声を入れたくなった。そうだ、得意(というか安直なごまかし)の「倍速再生」を使えば良いと思いついた。倍速にすれば、あの嫌な実際他人が聴いている自分の声を聴かずに済む。とりあえず短いセンテンスを録音してみた。
気持ちの悪い生の声を聴かずに編集してしまうつもりだったのだが、考えてみるともう何年も、というか十数年も自分の声を聴いたことがないことに思い当たり、恐る恐る聴いてみた。
楽器だとかスピーカーを始めとする音響機器全般に対して語られている「エイジング」という概念をご存知だろうか。つまり、楽器にしてもスピーカーにしても新しいうちは硬くて本来の音が出ないが、「経時」によって少しずつ本来持っている良質な音に近づいていくということだ。おれが昔やっていた、フォークギターなんかはわかりやすく、安いギターでも使い込んでいくとだんだん音の響きが良くなっていく。
十数年ぶりに聴いた自分の声は、長らく放置されたフォークギターのごとく、艶がなくなりしわがれて「老い」の色が濃くなっていたが、そのぶんあの気持ちの悪い生臭いような自分の声に対する違和感も薄くなっていた。おれの頭蓋骨やらのスピーカーシステムのエイジングが進んだということか。
ちょっとこれからは動画にも音声を入れてみようと思っている。
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